「ここは結構変わんねーもんだな」
そこはかつて、叔父と叔母、そしていとこのカルラが住んでいた家だった。
叔母が売らずにそのままにしているので、もまだ叔母達の家だ。
俺は借りてきた鍵で、戸を開けると、中に入った。
親族が宿代わりに泊まっていくので、中も比較的綺麗な状態を保っている。
特に兄の和也が、よく使っているらしい。
それと反対に俺は、幼かったあの頃から、一度も来ていなかった。
なんとなく、来るのが怖かったからでもある。
今も趣味にしているバスケは、叔父の幸也さんに習ったものだ。
俺が大好きなバイクも、幸也さんによく乗せてもらっていたからだ。
両親がほとんど家にいない俺達兄弟の面倒を、幸也さんはよく見てくれた。
『沖縄においで、いつでも迎えに行くよ』と、やわらかい笑顔で迎えてくれた。
俺にとって、幸也さんは第二の親父みたいなものだった。
カルラが生まれて少しした後、幸也さんはガンで入院した。
もちろん、俺達は久しぶりに揃った家族でお見舞いに行った。
俺はまだその頃、病気について詳しく知らなくて、病室に入った瞬間、衝撃を受けた。
抗癌剤で抜け落ちた毛、闘病生活で痩せ細った手足、ふくらみを失った顔。
あの笑顔と同じ人物とは思えないくらい…まるで別人のようだった。
でも、幸也さんは嬉しそうに俺の名前を呼んで、震えながらも手を差し伸べてくれた。
なのに、それを、その手を、
俺は、思わずふり払った。
「………暑ぃ………」
だらりと横になる。
手をふり払ってしまった後に見上げたその顔は、
少し吃驚していて、少し寂しそうで。
俺は見ていられなくて、いたたまれなくって、
その場から逃げた。
あの日の夜、幸也さんは亡くなった。
それから俺は、沖縄に来なくなった。
感情や表情を出す事を恐れていった俺に
バスケを教えて、バイクに乗せて、
笑顔を与えてくれた人。
家族や友達の大切さも教えてくれた人。大好きだった。
なのに、最期のその手をふり払ってしまった。
俺が殺してしまったんじゃないだろうか…
そうではないと頭ではわかっていても、なかなか感情が追いつかなかった。
心地よい風が吹き、髪をなぜる。
のんびりと、時間が止まった空間。
思い出す叔父のあの笑顔。
心が癒された気がした。